蜘蛛女のキス(2017.6.15) その1

*あくまで個人の感想です

*私の自分勝手な解釈です。

*面白くもなんともないです。

*自分の感情を吐き出してるだけです。

*舞台のあらすじ、セリフはニュアンス

*ところどころ記憶曖昧なので、時系列がおかしいところ多々ありますがそこは見なかった事にしてスルーして下さい。

以上、ご理解頂いた方のみどうぞ↓








この日を迎えるまでに私の心臓は2度止まりかけていた。

1度目はチケットが全滅だった私に心優しいお友達が一緒にどうですかと声をかけてくれた時。(それから平日だったにも関わらず主人が休みを取ってくれて子育てを変わってくれると言った時)

2度目はお友達のチケットが信じられないような良席だと教えてもらった時。

もうこれ以上心臓に負担をかけたら冗談抜きで死んでしまうと思っていたけれど(でも大倉くんを思いながら死ぬなら本望とかチラッと思うレベルのヲタクです)、人生初のグローブ座はとんでもない爆弾を用意して私を待っていた。

色んなお友達からの情報でグローブ座は狭い、どこの席でもよく見えるとは聞いていた。

だがしかし。

私に用意されていたのは(ご一緒したお友達に用意されていたというのが正しいけれど)何と1階席2列目ど真ん中という、どんな徳を積んだらこんな席を頂くことが出来るのかと思うような、いわゆる神席だった。

この時点で私の心臓が止まりかけたのは言うまでもない話。
落ち着けー!深呼吸ー!!
大倉くんを見ずに倒れてどうするーー!!!

とにかく始まる前からこんな状態だったので目の前に大倉くんが出てきたらどうなってしまうのだろうかと自分の余命を心配しながら蜘蛛女のキスは幕を開けたのです。

(ここからは真面目に書きます、多分)

グローブ座という小さな空間で、手元さえ見えない暗さの中に浮かび上がったのはモリーナが映画を語る声。

舞台の幕が上がって、数秒。
観客もあっという間に監房へ引き込まれた。

原作を何度か読んでからの観劇だったので頭の中には私なりに想像したヴァレンティンとモリーナがあったのだけれど、薄く光が射した舞台上にいた2人はまさに想像通りだった。

自分の意見や主張は押し通そうとするのに、気に入らないことや不都合なことがあるとモリーナに対して声を荒らげるヴァレンティン。

原作はほぼ会話だけで進んでいたので読みながら(この人いきなりキレるよね?)(どこで怒りのスイッチが入るのか全然分からないな・・・)と思っていたのですが、大倉くん演じるヴァレンティンがセリフを発するたびに文字は感情を乗せた言葉になり、生意気な視線、偉そうにモリーナを指す指先、感情の起伏の激しさを身に纏い、揺るぎない信念を持つ若き革命家の姿が現れた。

それにしてもヴァレンティン。
伸びた髪と無精髭さえこの世のものとは思えないほど美しいのですが、髪をかき乱す仕草は尋常でない色気を放ち、常にはだけた胸元と露出度高めのすらりと伸びた長い手足は見てはいけないものを見せつけられているようで直視出来ず目のやり場に困った大倉担は私だけではなかったはず。

一方、そんなヴァレンティンと過ごすモリーナ。決して美人では無いのですが(失礼!)とにかく可愛らしい。感情豊かで茶目っ気があって世話焼きで・・・そしてヴァレンティンに気付かれてはいけない秘密を隠し持って。

病気の母親を案じ自らの釈放の為に所長の言いなりとなって、ヴァレンティンから仲間の情報を聞き出そうとするモリーナ。

これは私の推測ですが、ヴァレンティンと同じ監房に入った時からモリーナの未来は決まっていたのかもしれない。モリーナ自身もそれを感じていたのかもしれない。

所長が2人の間に愛が芽生えることまでを見越していたかどうかは分からないけれど、所長の頼みを断れば釈放はないし、従ったところで自身の安全や釈放の約束が果たされる保証もない。だけど従う他に選択肢はない。

ヴァレンティンは肉体的な拷問を受けたけれど、モリーナもまた精神的な拷問を受けていたのではないかとモリーナがふいに見せる思いつめた表情が(後に所長との面会で見せる怯えた表情も)監房の中という事実を強く印象付けた。

ヴァレンティンとモリーナを繋ぐもの。
そしてこのお話の軸になるのはモリーナがヴァレンティンに語って聞かせる黒豹女の映画。

モリーナは時に恋焦がれ、時には黒豹女の影に怯えながら主人公を演じるように映画を語り観客もその話に引き込まれていくのだけど、ヴァレンティンは興味のある場面は前のめりで聞くくせに、そうでない場面は寝転がって聞き流したり余計な口を挟んだり邪魔ばかりしてはモリーナを怒らせる。(謝るけれどそれがまた口先だけのヴァレンティン)

とにかく2人は正反対で噛み合わない。

そもそもヴァレンティンにとってモリーナは同じ監房にいる退屈な時間に映画を語ってくれるだけの相手だったはず。(と、私は解釈)

だけどヴァレンティンの知らないところで所長の作戦は静かに始まっていて、オートミールのお皿を2人が取り間違えるところから歯車が狂い出す。

もしここでモリーナが無理やりヴァレンティンに大皿を押し付けていたら。ヴァレンティンが大皿のオートミールを口にしていたら。
全ては計画通りに進んだのにモリーナはヴァレンティンにオートミールが自分の好物であることを理由に大皿を押し付けられオートミールを口にすることになる。

私が感じた2人がお互いを(恋愛感情抜きで)思い合う最初の "人間らしさ" がこの場面だった。

ヴァレンティンはモリーナの好物を知っていたし、閉ざされた監房の中で決して美味しいとは言えないけれど食事くらいしか楽しみがないこともきっと分かっていたと思うし、モリーナもまた自分勝手に振る舞う革命家の優しさに触れた瞬間だった気がする。

そしてヴァレンティンを苦しめるための食事を口にしたモリーナは体調を崩しヴァレンティンはどうしていいのか分からず右往左往するのだけど、ぐっと握った拳が何の役にも立たずに立ち尽くすのが印象的だった。

ヴァレンティンはきっとここでまたひとつの挫折を味わったと思った。

高い理想と揺るぎない信念を持って世界を変えたいと思っているのに目の前で苦しむ人に何もしてやれない。

自分の無力さが身に染みたヴァレンティンを、モリーナは自身が苦しみながらもどんな気持ちで見ていたんだろう。(きっと見ていた、何かを感じていたという私の解釈。1階席だったのでモリーナがベッドにいる表情は全く見えなかったので)

少しずつ、少しずつ。
2人の感情が動き出す。

今度は作戦通りにヴァレンティンが食事で体調を崩し、モリーナは医務室へ行くように勧めるが政治犯は腑抜けにされてしまうから行くわけにはいかないと頑なに拒むヴァレンティン。
そしてそんなヴァレンティンが汚した下着を文句ひとつ言わず始末してヴァレンティンの世話をやくモリーナ。

モリーナは本物の悪人にはなれない。

正確に言うと監房にいる時点でそれなりの罪を犯しているのだけど、そのどこか悪人になりきれない良くも悪くも心の甘いところを所長に狙われてヴァレンティンと同じ監房に入れられた気がしてならなかった。

苦しむヴァレンティンから仲間である恋人のことを聞き出そうとするモリーナ。自分の世話をしてくれるモリーナを信用して話し出すヴァレンティン。

噛み合うはずのない2人。

だけど苦しむモリーナに手を差し出すことが出来なかったヴァレンティンとは対照的に
モリーナは体調を崩し「手を握って」と弱音を吐いたヴァレンティンの手を握る。

噛み合ってはいけないはずの2人。

眠ってしまったヴァレンティンを優しく見つめもう1度そっと手を伸ばしたモリーナが慌てたように手を引っ込めたのは、持ってはいけない感情(まだ恋愛感情かどうかは分からないが所長よりヴァレンティンを信用し始めた感情)のように見えた。

最初から最後までヴァレンティンもモリーナも、表情はもちろんだけれど手の動きが言葉に出来ない感情をあらわしているようで、2人の指先までじっと見つめていた私は1幕が終わると同時に大きなため息をついた。